アオイを選択した場合

ないわけが、ない
たくさん、やりたいことがあった
たくさん、愛し合いたかった
はっきり約束だってしたのに
まだ、デートだって、してない──
それはどういう……
美雪はそう言って、背を向けた
声は震えている
彼女は背を向けたまま──
そう言って、美雪は屋上から消えた
どんな言葉も、言葉にならない
美雪の想いに、報えない俺が──
彼女から、エールをもらったのだ
俺は、脳味噌を振り絞り、考える
美雪は、いい加減な嘘をつかない
なにか方法があるはずだ
俺とアオイが、一緒にいる方法が
待ってくれ!もう少しだけ──
ダメだ──
そうじゃない──
こんな、別れ方──
幸せなはずが、ない!!
俺の叫びが、セカイに響いて──
アオイが発信ボタンを押す
俺は咄嗟に、手を伸ばす
指先が──
重なる
強制終了&再起動

通話履歴を見る

アオイと一緒に発信した俺は──
それをただ、見ているだけだった
ここはセカイの狭間
ゲームのセカイを飛び出して
俺たちは、別の場所に行く
アオイは、カミサマのところへ
俺は、現実の世界へ
もう、できることはなにもない
アオイが現れず──
選択肢も現れず──
ただ、当たり前に過ぎていくセカイ
ふたりがすれ違うだけのセカイ
それをただ、見守るだけ
ちがう?
それは……
俺たちが撮った写真?
……そうか
俺は、美雪と友達になれないと思い込んだ
でももし、この写真を俺が見たら?
なにかが……変わる?
もう、一押しか……
俺の物語はここで終る
このメールが、その一押しになるか
正直言って、わからない
でも──
ふたりで、願いを込めて、ボタンを押す
その後は、彼らの物語
ここでは語られない、別のセカイの物語
信じよう
祈ろう
心一と、美雪の、幸せを
別のセカイの──
別の、セカイ……
そうか、もしかして──
ああ
ほんの少しだけ──
少し経ったら、デートしよう
約束、したもんな
消えない
アオイが、俺の手に触れる
──溢れ出すのは、色とりどりの記憶
このセカイではない、どこか
見たことのない、ヒロインたち
それは、俺だ
俺と、出会うんだ
カミサマはヒロインのイデアなんだろ
アオイがカミサマと記憶を同期して
その記憶は、別のヒロインに繋がる
確かに姿は違うかもしれない
でも、これからプレイする全てのゲーム
そのヒロイン、全ての中に
アオイの記憶が、息づいている
アオイのバグが、残っている
だから、別のセカイでまた会おう
ああ、今度こそ、デートしよう
迎えに行く
どんなに遠く、離れていても
微かな電波をたぐり寄せて
俺は、アオイを見つける
絶対、見つけてやる
そして、もう一回
今度は、別の姿で、約束を果たそう
それで、また、今度こそ──
ハッピーエンドを、迎えよう
少しだけ、な
俺はこれから違うセカイで
たくさんのヒロインと出会うだろう
たくさんの可能性を見るだろう
たくさんの選択肢を選ぶだろう
たくさんのエンディングを迎えるだろう
スマフォを失う前のアオイのように
本気の恋はできないかもしれない
セーブロードを繰り返し
攻略のことしか考えなくなるかもしれない
でも、俺は、知っている
そこにはいつでも、アオイがいることを
俺が、彼女を覚えている限り──
そのゲームの、そのヒロインは──
愛を誓ったアオイの化身だってことを
エンディングのボリュームが上がる
じきに、スタッフロールが流れるだろう
ゲームは終わる
でも、ふたりの記憶は、ここにある
またいつか、どこかで
アオイに出会えることを、確信し──
俺たちは、このセカイから外に出た
アオイEND

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